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 紳士なジャズマンのタイの国王

  • 2025年9月18日

タイで時間を過ごすと、彼の写真を頻繁に目にする。車を走らせ、街中を歩き、店の中に入り、それにしても国民が国王に対してよく溶け込んでいる。まるでその一部分かのように。これもひとつのあるべき国の形ともいえる。仏教を信仰する彼らには自然なことなのだろう。だからといって彼を特別に意識することはなかった、ある1枚の写真を見るまで。

ある雨の日のバンコク市内。雨から逃げるようにフイルムの現像のためカメラ屋の中に入って現像が済むのをそこで待っていた。店の中には雨の匂いが立ちこんで、フイルムの匂いと混じる暗く重い時間。ゆっくりと辺りを見渡した。小さく机の上に立つ縁に収まった1枚の写真が目に入った。髪は整い、目は黒いサングラスによって覆われ首からかけたNikonを手に握りこちらを眺めている。威あって猛からず、ただ悠然と。 

Oil on Paper By Author 
プミポン・アドゥンヤデート (第9代タイ王国の国王「ラーマ9世」キング)

その日以来キングに対する興味がふつふつと湧いた。ただ彼のことを知りたくなった、国王としてでなく、ひとりの男として。

左から、姉、キング、母、兄

5歳までバンコクで過ごしたキングと家族はスイスに移住することになる。
そこはLausanne(ローザンヌ)という街。残雪が残るアルプスに囲まれた美しく静かな湖の前に身を据えた。冬はウィンタースポーツに励み、夏はイタリアの地中海沿岸で泳いだ。そこで王気付いた暮らしというより、詫び住まいをしていたのは、母の存在が大きい。ガーデニングに打ち込み、家の周りに果樹園を作って新鮮な野菜や果物を子供達に与えていた。何でも買い与えることのしなかった母のもと、子供達は果樹園の周りでたくさん遊び、ときより果物を摘みお小遣いを稼いだ。キングはそのお金を少しずつためてクラリネットを購入した。これが彼の初めて手にした楽器である。

先に音楽に通じていた兄から、流れを汲んだ。サキソフォン、トランペット、クラリネットを習い、兄がレコードから流すブルースやR&B、クラシック音楽をよく耳にした。その中でもキングはJazzに情熱を燃やした。

ターンテーブルを前にレコードを持ったキングがこちらを見ている。サングラスから溢れる彼の目にはその情熱的な器量がうかがえる。

英語が堪能であった彼はその他にもフランス語、ドイツ語、ラテン語までも喋るようになっていた。言語を学ぶ才に恵まれていたのだろう。8歳の時には「Cononet Midget」を与えられた。彼が初めて手にしたカメラである。シャッターを押して気軽に撮れるものではない。習得にゆっくりと時間をかけた。写真を撮ることにも、音楽と同じほど情熱を傾けた。

白に身を包む彼が、その純白な瞳をレンズに通して家族に向いている。

勉学に勤しみ、音楽に慈しんで、写真を撮ることに心を奪われたキング。その見識に飢えたような姿勢は、彼の生涯において滲み出てくるもののように感じる。物事の興味や関心の底が深ければ深いほどその人の深みも増す。だがキングの個性や人格は彼一人で作り上げたのではない、やはり母の存在を抜きにしては語れない。

タイに戻ったキングの成長を目にして、国民はとても感銘を受けていたという。その時にはキングの兄が8代目国王となり国を収めていた。

だがその翌年1946年、国王である兄アナンダが、なにものかに銃で撃たれ怪死した。弱冠21歳。

当時まだ18歳、兄を失くした悲傷と失望、国を背負う苦悩と責任。まずは学業を修めるためにスイスの大学で4年間を過ごすことにした。スイスへと飛ぶ日、彼の日記にはこう記されている。「空港へと向かう車の中、群衆の中をゆっくりと抜ける。誰かが叫んでいる声が聞こえる、『民を見捨てないでください』 民が私を見捨てないなら、私がどうして民を捨てることができるのだろか。そう叫びたかった」

人を真剣に愛したことのない人生はどこか虚しい。愛する人は自分の鏡となり、自分自身の本性を暴く。時には苦しくたとえ目を塞いで耳を閉じたとしても。
だがそれは同時に自分の中に種を蒔き育む。それは成長し愛する人へと伸びていく。

1947年キングは車を買うためにフランスに1人で訪れた。その知らせを聞いたパリ駐在のタイ大使館が彼を歓迎するために娘を派遣した。パリ郊外のフォンテーヌブロウ、よく晴れた良い天気だった。キングが来るはずの場所に彼女はただ待っていた。整った鮮やかな暖色のベージュのドレスをまとい、黒髪を一本の三つ編みにして背中の真ん中に流して。ようやくキングの車はやってきた。そこで2人は初めて顔を合わせる。

彼女はのちにこう話している。

「キングは16時に来ると言っていた。来たのは19時、私はすることがなくただ彼への想像を頭の中で膨らませていました。あとになって、その日彼の車のエンジンが故障して修理に時間が取られたことを知りました。あの初めてお目にする瞬間は絶艶の記憶として心に刻まれております。私にとって、キングにとっても」

『Dream of Love』『Dream of You』どちらもキングが彼女のために作曲した曲である。彼の彼女に対する愛を芸術を通して表現した。2人は結婚することになる。

彼女への絵画も残している。独学で学んだそうだ。
これも同じく彼女。初期の頃は写実的に彼女を捉えている。
表現主義にはオーストリア出身の画家オスカーココシュカの影響を受けたと語っている。
戴冠式の様子。王妃は銀の糸を施したサックスブルーのローブと靴、勲章のバッグダイヤモンドを身に着け、キングは白の海軍元帥の制服に、目を覆う黒いレンズ。
宗教とは国の文化。その本質とは。
托鉢を行うキング。

一度それは海辺で目にした。早朝の浜辺で地平線から昇る朝日に目を奪われていた時、遠くから浜辺沿いを歩く存在を感じた。オレンジの法衣から僧侶であると認識した。僕達は何も持っておらず、目の前に現れた時にはただ膝を落とし、頭を下げた。ただ彼らの素足が砂を動かすのが見えた。頭を上げオレンジ色の背中を目で追った。潮が引いて濡れた砂浜に、朝日の光が色を与えていた。眩ゆく輝く銀色の幻想的な色であった。

ピアノの前で作曲に励むキング。

キングにとって国を担うことはあまりに自然な責任に感じる。クールな仮面を被り、責任の重さえ包み隠そうとしている。彼の芸術もまた国のためにごく自然に向かっていった。自我から離れた彼の芸術はあまりにもニュートラルでナチュラルである。

キングの知らぬ土地はない」と言われるほど、実際に足を運び国の地理に精通していた。
訪れた場所で写真を撮り、その土地を調べるための資料して使う。この写真はキングが訪れた街で人々の様子をカメラに収めたものだ。

「写真は芸術です。良い物であり、役に立つものです。でもただ楽しみや美しさのためには使いません。写真を通して社会に価値を創造するのです。人々にとって有益になること、芸術とは国の発展への貢献となるのです」

1960年米国訪問の席でワシントンプレスの玉座のバンドメンバーと共に演奏し、出席者に深く印象を与えた。
1964年オーストリアのウィーンでのオペラホールでの彼のコンサート。国際交流の場で音楽を披露する誠にキングらしい姿。

世界全体が不穏な雰囲気にあった時代、国の責任者としての器量とはなにか。イデオロギーの対立による核兵器や争い世界情勢の脅威にあっても、国民の士気を高め、魅了すること。キングの外交での立ち居振る舞いはそれに値するものではないか。

「国が発展するために必要なのは、不必要なものを多く欲しがらないことである。人の欲は尽きることを知らない。多くを持たぬことに満足し、足るを知ることである。幸せに日々を過ごしなさい。幸せは内発的な感情によって左右される。あなたが幸せなら周りもそう感じる。そうして国が発展する」

戦後の転換期に君主制国家として目まぐるしく移り変わる現代の発展に躊躇することなく、自然の偉大さに心を置き、アグリカルチャーを推し進めた。熱帯雨林に木を植え緑を増やし、ライスフィールドを作る環境を整えた。国を隅々まで知った彼の知見と見聞によるもの、彼が宿命と感じ取ったもの。未来のこの国に想いを馳せて。

2016年 10月13日 崩御 88歳

バンコクを抜けて田舎まで運転する。外の暑さは車の中にいても伝わる。地平線は広がりを見せ、周りを覆う美しい黄金色のライスフィールドにすっかり目を奪われる。キングのことが頭に想い浮かぶ。しばらく離れるつもりはないらしい。彼にとって国への貢献とはこの風景や自然の美しさを繋いでいくということだったのか。それはわからないが彼の芸術もその中ではその一部。青空が天高く広がる午後、彼に想いを巡らせ車を走らせる。

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