人間にとって「夜」とは。限りなく広がる暗闇。日は沈み灯がつき始め世界は一瞬にして変わる。日中の出来事を闇の深さで覆う。明日へのために。夜が明日へのインスピレーションとなる。夜はそれを望むものにとってなにかを創造するエネルギーへと向かわせる。広い夜空の下、難しいことを考えるのは明日にして、ただ好きな人や空間に身も心も委ねる。

バンコクでは日中の嫌気がさすほどの暑さも、日が沈み心地よい風が吹き始める。暑さから解放された人々は外へ出て街に溶け込む。平日の車の渋滞を嘲笑うように週末の高速道路をスピードを出しながら走る。メーターは加速する。気づけばナイトマーケットの近くまで来ていた。マーケットへと歩みを進める人々が目に入る。ネオンの光が見えた。車を駐車場に駐め灯の方へと向かう。夏の夜の光に集まる虫のように。

フードコートやトラックからは美味な匂いが漂う。たくさんのテーブルとイス、大勢の人が賑わっている。そのひとつに腰掛ける。屋台からの煙とにぎわう雰囲気とが混じる。熱帯国では辛い食べ物。レンセープとガパオ。いつもはお皿の端によけるチリも今日は口の中に運ぶ。ジワジワと体の中が燃え始める。たっぷりのレモングラスとコリアンダーの葉が入ったレンセープも味わう。

一緒に連れてきた犬がテーブルの下から僕を覗いている。言いたいことはわかる。大きな骨をやると、しっぽを大きく振って脇目も降らず骨に夢中になった。

人々は夜らしい顔をしている。日中のような気が張った表情は抜け、そこには疲れも混じる。カフェに座りビアをいそいそと呑んでいる。ビアを持つ手は濃く日焼けをし、疲れを流し、癒しを得ているように見える。店に入ってはゆっくりと流す。


今夜は気持ちのいい風が吹く。月は満月。薄い雲が月を覆う。それは満更でもなく月の光を誇張させる。パームツリーの葉ですら月に届きそうだ。その木の下でも人々はテーブルを囲い楽しんでいる。

垢抜けたアメカジの店に引き寄せられる。ミリタリーものはいい。無駄がない。ファッションがその時代のニーズならば、ミリタリーは戦場で最高の仕事をする兵士のためのものだ。戦争を肯定しているわけではない。激しい時代からはより文化が生まれるということだ。その摩擦によって。


軒並みに並ぶ店、倉庫に詰まった古着、それに車庫に納められたヴィンテージの車やカスタムバイク。普段の目に映る世界とは違った世界。カスタマイズされたつまらない世の中に生きる人には新鮮に映る。熱帯の夜が尚そうさせる。気を張る必要はない。ここの夜にそれは似合わないから。