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きっと、また読み返すことになる本。

  • 2025年9月17日

この本を読み始めてから2ヶ月といったところか。やっと長い航海から終わったような気分だ。その間に色んな場所へと共にし、表紙がヨレたり、黒ずんだりし、ページを読み進める度に折り返しのマークも増えた。終わりへとページをめくっていくと、そこにはゴールへの達成への満足感といったものはだんだん薄れていき、その分に主人公ハンス・カストルプへの愛情を深め、同時に彼をもうしばらく見ることも聞くこともないと思うと、心に穴が空いた気分になるのだった。作者のトーマス・マンは当初は短編集の一挿話として考えていたそうであるが、これが完成までに12年を費やす長編作『魔の山』となったのだった。

主人公はハンス・カストルプ。ドイツのハンブルグで生まれ育った。僕らが出会った時彼は23歳。ちょうど工業大学を卒業し、造船家のエンジニアとして実習生として働こうとしていた時だ。その本試験を前に疲労困憊していた彼は医者に勧められ、アルプスの療養所で少しの間療養することになる。アルプスには5ヶ月前から病気で療養していた従兄弟ヨーハイムがいた。少しの間療養するなら、かわいそうな従兄弟の相手になってやるのが一番自然で良いことだったのである。ハンスにとっても従兄弟にとっても。

カストルプ家は良い家柄であったが、ハンスは早くに両親に先立たれいわば孤児だった。その後大叔父に引き取られ、(たいした財産ではないが遺産の相続を受けた)ハンスは何もしなくてもしばらくの間を過ごすだけの金があった。

彼の生活はといえば、たとえば日曜日の午前は、「年数の古いポートワインを飲んで温かいパンと燻製の肉で朝食をとり、愛用の葉巻マリア・マンツィー二をくゆらして、うっとりしながら椅子の背にもたれるというふうであった(p.67)」そんなことをいうと彼が金持ちの凡庸のように思われるかもしれないが、彼の物腰は洗礼され、数学にはかなりの天文を持っており学校の方もなんとか卒業することができた。

だが彼には、「自分がいったい何になりたいと思ってるのか、それが長い間わからなかったのであって、やっと進路が決まってからも、もう少し別の決め方もありそうな気がしていたのである(p.72)」

3週間だった。夏の盛りにハンブルグから汽車で上り下りして南ドイツのボーデン湖の岸へ行き、そこを降りると混み合い始め、険しい岩道を懸命にアルプスの奥深かく登っていくのだった。汽車は厳かな幻想的にそびえ立つアルプス連峰の雄大な遠望をやりすごして平坦な谷間いをのどかに走った。二日かかって小さな駅に停車した。20時近かったがまだ日は暮れてなかった。「やあ、きたね、さお降りろよ」というハンブルグ訛りの声を聞き、外を見ると、従兄弟のヨーアヒムがプラットホームに立っていた。ハンスはプラットホームに飛び降りて、まごついたり、笑ったりしながら、従兄弟と本式に、いわばはじめて親しく挨拶をかわした。

ふたりを乗せた馬車は海抜1600mのアルプスの不規則な道を進んだ。ハンスがまだ慣れない空気を試しに吸うと、爽やかだった。 が、ただそれだけで、それが空気だとは思えなかった。目に入る丸い塔のある建物にちょうどいま明かりがついたところだった。

「急にたそがれがやってきた。一面の曇り雲をしばしば賑わしていた淡い夕焼けがもう色褪せてしまって、あの夜のやってくる直前の白けた、正気のない、悲しいような変わり目の暮れ色があたりを領していた(p.22)」

あと50mだ。馬車が最後には足並みになって、急勾配の環状になった車道を国際サナトリウム「ベルクホーフ」の正面玄関へと運び、彼はいとも上機嫌に馬車を降りた。こうしてハンス・カストルプは『魔の山』に足を踏み入れるのだ。その深い場所まで進んでいくことになるとも知らずに。

23歳のまだ世界に根を下ろしていない無垢な青年は、『魔の山』でロシア人のショーシャ夫人を愛し、イタリア人文学者やイエズス司教と交流しながら根を深め自己を形成していく。その点でドイツ教養小説の最高傑作とされている。日本の近代文学でいうところの、漱石の『三四郎』や鴎外の『青年』といったところだ。

20代の僕が余計にハンスに愛情のような思い入れをするのも、この時期に体感することや思想が今後の人生を形成していく上でかなり重要なものになるということ、それに、まだ若さ上の名誉を重んじ、誇りや体面を看板にしていること、そんな感情生活を彼に投影して感じていたからだと思う。もちろんそこにはトーマスマンの扱う言葉の魔術のようなものもあったことは認めなければならない。

ハンス・カストルプ君、君が味わった肉体と精神の冒険は、僕の肉体と精神の一部として育まれてゆき、またいつかある日僕がまた歳を重ねた時に、『魔の山』へと引き戻すことだろう。

著書紹介
書影
タイトル魔の山
著者トーマス・マン
出版社新潮文庫
翻訳高橋義孝
出版日1969年2月25日

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